供養の夜

  「ここの花火はふつうの花火じゃなくて、供養のための花火だそうですね」
  お盆の17日、橋の上で出会った初対面の写真仲間が話しかけてきた。
  「天正の陣で毛利の軍勢と戦ったときの、双方の戦死者の魂を慰める花火だとか聞いています」
  「そうらしいですね…」
  開始時刻にはまだ早かったらしいが、話をしているうちに、ようやくどんどん打ち上がり始めた。
  橋の上は風が通って気持ちがよく、夕涼みにござを敷いて寝転んでいる家族連れも見受けられる。
  とくに張り出し部分は見晴らしがよくて人の少ない特観席。実は少し花火が遠いのだ。
  それでも、暗闇の中に浮かぶひとつひとつの花が、戦死者の霊を迎え、慰め、見送り、そして盆の最後を締めくくるために夜空を彩っている。
  そんな思いが橋の上にも迫ってくるようで、いつまでも夜陰に広がる夏の美しい花を見上げていた。